お気楽Girl! 第一話「始まりだよ!」

 

「これからボクはこの高校に通うことになるんだね〜」

ボクが見ていたのは、私立星雲高校、これからボクが通う事になる学校なんだ。そしてボクの名前は鷺宮 詠佳(さぎみや えいか)。この春から高校生になったんだ。

「あら詠佳ちゃんも来ていたのね」

「あ、雪恵ちゃんも来てたんだ」

緑色の髪でメガネを掛けた女の子は或羽 雪恵(あるば ゆきえ)ちゃん。住んでる家も近所で、ボクの幼馴染みなんだ。

「来てたというより今来たんだけどね」

苦笑いをする雪恵ちゃん。そっか、今来たばかりだったんだ。

「あの学校がボクらが通う私立星雲高校なんだよ!」

ボクは学校の方に指を指して雪恵ちゃんに言った。

「いや、それは分かってるから・・・、それにあまり大声出さないの、恥ずかしいじゃない」

雪恵ちゃんが顔を赤くしてボクに言った、確かに周りを見てみると、周りにいた人達がボク達を注目していた。

「えへへ・・・、ごめんね雪恵ちゃん」

「少しは気を付けてよね。それにしても詠佳ちゃんよく合格出来たよね、中学校の時の模試では合格出来るかかなりギリギリって言われてたもんね」

「そういやそうだったね」

確かに雪恵ちゃんの言う通り、中学生の時のボクはお世辞にも成績が良い方では無かったから、星雲高校に合格出来るかはかなりギリギリな状態だった。

「でも雪恵ちゃんのお陰で何とか合格出来たんだよ」

「そうね、よく私の家に泣きそうな顔で勉強教えてって駆け込んでたよね」

雪恵ちゃんは突然笑い出した。まぁ、泣きそうな顔して雪恵ちゃんの家に駆け込んでいたのはホントのことなんだけどさ・・・。

「笑う事ないじゃない雪恵ちゃん!ボクだって頑張ってたんだから!」

「ごめんね詠佳ちゃん、でもそのお陰でまた詠佳ちゃんと一緒に通えるんだよね」

そうだ、また雪恵ちゃんと一緒に学校通う事出来るもんね。確かにボクにとっても嬉しいことだよ。

「そうだね、クラスも一緒だと良いね」

「ええ」

雪恵ちゃんは笑顔で答えてくれた。

「それじゃ早速学校の中に入ってみようよ〜」

「ちょっと待って詠佳ちゃん、学校にはまだ入れないわよ、その前に明後日クラス発表で、その後8日に入学式だよ」

学校の中へ入ろうとしたボクを慌てて引き止める雪恵ちゃん、そういや今日41日でまだ学校に入れないんだった。

「あはは・・・」

「笑ってごまかさないでよ、詠佳ちゃんいっつもそうなんだから」

呆れた様子を見せる雪恵ちゃん。ボクっていつもそんな感じだったっけ?

「それでなんだけど、詠佳ちゃんは学校へはどう通うつもりなの?」

「う〜んと、ボクは学校の近くにあるアパートを借りたよ、自宅からだと結構距離あるし」

「私も近くのアパートを借りることにしたの、それで今日そこへ引っ越してきたの」

やっぱり雪恵ちゃんも僕と同じ様に近くのアパート借りたんだ。ボクと雪恵ちゃんの家は近所だけど、星雲高校からは結構な距離があって、通うには大変だしね。

「なるほど〜、じゃ早速雪恵ちゃんのとこに行ってみよ〜」

「え!?ちょ、ちょっと待ってよ詠佳ちゃん〜!」

こういうのって、やっぱり気になるものだよね〜。ボクは雪恵ちゃんの住むアパートへむかう事にした。雪恵ちゃんもボクの後を追う様にして向かって行った。

 

* * *

 

雪恵ちゃんの住むアパートへとやって来たのだが、ボクはこのアパートに見覚えがあった。

「あれ?ここって、『ほしぞらアパート』だよね」

「確かにそうだけど、それがどうかしたの?」

「実はボクもここに住んでるんだよ」

「え〜っ、そうだったの!?全然知らなかったわ」

驚いた様子の雪恵ちゃん。ボクがここに住んでること雪恵ちゃんに一度も言って無いから無理ないのもしれないけどね。

そういやまだ『ほしぞらアパート』について説明してなかったね、『ほしぞらアパート』というのは、星雲高校からほど近い場所にある若干古めな感じのアパートで、2階建てで1階毎に3部屋あるんだ。これまでに多くの星雲高校の生徒がこのアパートに住んでたみたい。名前の由来も星雲高校の名前からなんだって。家賃は43,000円、トイレ、風呂付きの1Kって言うのかな、部屋が一つで台所が付いてるのって。

「ボクは203号室に住んでるけど、雪恵ちゃんはどの部屋に住むの?」

「えっと、確か202号室だったはずね」

「うわ〜、雪恵ちゃんとまた隣通しって、これは何たる偶然なんだろ〜」

偶然にも雪恵ちゃんが住む部屋は、ボクの住んでる203号室の隣の202号室だった。これは喜ばれずにはいられないよ。

「そうかもしれないわね、じゃあそろそろ持ってきた荷物を整理したいから私は部屋に戻ってるね」

「ちょっと待った」

ボクは自分の部屋へ戻ろうとする雪恵ちゃんの腕を掴んだ。雪恵ちゃんはすぐに立ち止まり、ボクの方へと振り向いた。

「え?何かな詠佳ちゃん・・・?」

額から冷や汗を流している雪恵ちゃん、その様子だとボクの目的には気付いてるみたいだ。

「もう何も言わなくても分かってるよね〜」

「な、何のことでしょうか・・・」

「とぼけたってムダだよ〜」

「はぁ・・・、入って来ていいわよ・・・」

溜息をついて観念した様子の雪恵ちゃん。どんなもんだ〜い!

そして、ボクは雪恵ちゃんと一緒に雪恵ちゃんの部屋に入った。

 

ボクは部屋に入ってすぐ部屋の中をぐるりと見た。まだ部屋の中には段ボールがいくつも積まれてある状態だった。

「ボクも最初部屋に入った時はこんな感じだったな〜」

「段ボールから荷物を取り出す度に、これからどんな部屋になっていくのかなって楽しみになっちゃうよね」

「それわかる〜、自分が思っていた感じになると嬉しくなるよね」

確かにそうだよね、引っ越しの時に詰めた荷物が入った段ボールを開けて、荷物を整理する時に自分が思い描いている部屋にしてみようってワクワクした気持ちになっちゃうよね。

「ところで詠佳ちゃん、このアパートには私達以外に誰か住んでいるのかしら?」

「う〜んと・・・、確か1階は誰も住んでなくて、2階はボク達の他に201号室に誰か住んでるって聞いたよ」

「・・・本当に多くの星雲高校の生徒が住んでいたのかしら?」

「さぁ?」

多くの星雲高校の生徒が住んでいたと言われる割には住んでる人数が少ないけど、ボクにとっては特に気にする事でもなかった。

「じゃあ荷物の整理が一段落ついたら隣の人に挨拶していこうかしら。もう詠佳ちゃんは201号室に住んでる人には挨拶してきたんだよね?」

「まだしてないよ」

ボクの一言にきょとんとする雪恵ちゃん。ボクもまだ201号室に住んでる人の事はまだ知らないんだ。

「詠佳ちゃんはいつ頃ここに引っ越してきたの?」

3日前!」

3日前に引っ越してきてるんだったら、引っ越してきた日に201号室に住んでる人に挨拶しなさいよね」

「いや〜、そこまで考えてなかったよ〜」

ボクは頭を掻きながら笑みを浮かべて雪恵ちゃんに言った。雪恵ちゃんは呆れた表情になっていた。

「仕方ないわね、私の部屋の荷物整理が一段落したら一緒に行きましょ」

「うん、そうするよ」

「ただし、私の部屋の荷物整理を手伝ってもらうからね!」

雪恵ちゃんはボクの両肩を掴み、怖そうな表情でボクに言った。

「も、もちろん分かってるよ・・・」

雪恵ちゃんに逆らう訳にはいかず、雪恵ちゃんと一緒になって部屋の中にある荷物の整理をすることとなった。

 

* * *

 

ようやく雪恵の部屋の荷物の整理を終えた詠佳と雪恵。既に外はオレンジ色に染まり始めていた。

「一段落ついたらのはずが、気付けば全部終わらせちゃってたね」

「意外と夢中になっちゃうもんなんだねぇ〜・・・」

クタクタな様子の二人。それもそのはず、荷物の整理どころか、家具の組み立てや設置まで行っていたからだ。そうした甲斐あって、雪恵の部屋は無数に積み上げられただけの段ボール箱だけの殺風景な部屋から部屋らしい内装へと変わっていた。

「やっぱ雪恵ちゃんの部屋は緑で統一されてるよね〜」

詠佳が言う様に、雪恵の部屋の家具等は緑で統一されていた。詠佳曰く、雪恵は昔から緑色をよく好んでいたという。

「自分の好きな色で統一していると心が落ち着く感じがするからかな〜」

ニコッとほほ笑む雪恵。先程の疲れもあってか、雪恵はまったりとしていた。

「まったりしてるとこ悪いんだけど、隣に住んでる人の挨拶いくんじゃなかったっけ?」

「そ、そうだったわ!」

詠佳の言葉にハッと気付く雪恵。部屋の荷物整理が終わったら詠佳と一緒に隣に住んでる人に挨拶に行くと自分で言っておきながら、危うく忘れるとこであった。

「それじゃあ詠佳ちゃんも一緒に挨拶に行きましょ」

「ほ〜い」

雪恵と詠佳は隣に住んでいる人に挨拶をする為、部屋を出る事にした。

 

「という訳で早速ノックしてみよう〜」

「あなたには躊躇という言葉は無いのかしら・・・」

迷う事無く201号室のドアをノックする詠佳。

「たのもーっ!」

「何言ってるの詠佳ちゃん、それは道場破りでしょ!」

詠佳のあまりのトンチンカンな行動ぶりに、思わず突っ込みを入れる雪恵。するとその状況に見かねたかの様に201号室の扉が開いた。

「何なのよ一体・・・、あたしの家は道場じゃないって・・・、あなた達は誰?」

扉の向こう側にいる201号室の住人は、詠佳や雪恵と同い年位の少女で、茶色の髪で、髪の長さは詠佳と雪恵の中間辺りで、後ろ髪は束ねられていた。

「あの、私は或羽 雪恵と申します。今日から隣の202号室に引っ越して来ましたので、挨拶をしたくて訪ねたのですが。・・・もし迷惑だったらすみません」

雪恵は201号室に住んでる少女に対し、申し訳無さそうに言う。

「そこまで言われると何だか断りきれなくなっちゃうな〜」

と照れた表情で頬を掻きながら言う少女。そして少女は詠佳の方に顔を向けると溜息を一つしてこう言った。

「・・・まぁ、あなたは別だろうけどね」

「へ?」

詠佳は少女に自分のことを言われ、ポカンとしていた。

「そういやまだ名前言って無かったね、あたしは沢嶋 柚希(さわしま ゆずき)、星雲高校の1年生で、このアパートには一週間前から住んでいるの」

彼女の名前は沢嶋 柚希、詠佳と雪恵と同じ星雲高校の1年生である。この『ほしぞらアパート』には1週間前から住んでいたという。

「それと、あなたの名前は?」

柚希はまだ名乗っていない詠佳に名前を名乗るように言った。

「ボクの名前は鷺宮 詠佳、203号室に住んでいて、ボクも星雲高校の一年生だよ」

「一人称がボクって・・・、大連鎖で有名な落ち物ゲームのキャラじゃあるまいし・・・」

「それって何のこと?」

詠佳は柚希の言っていることが理解出来ていないようだ。

「それで鷺宮さんも今日から引っ越してきたの?」

「ううん、3日前から住んでたよ」

3日前!?」

3日前から住んでるとキッパリ言う詠佳に驚く柚希。それなら3日前に挨拶に来るべきなのではと柚希は思っていた。

「でも何日か前に203号室に荷物が搬入されるのは見たけど、それから鷺宮さんの部屋の明かりは点いて無かった気がしたけど、ホントに3日前から住んでたの?」

詠佳に対し、疑いの眼差しを向ける柚希。柚希が言うには、詠佳が引っ越してきた3日前からでも203号室に明かりが点ることはなかったという。しかし、ここで何故明かりが点いていないように見えたか判明することとなる。

「あぁ、ボクの部屋のカーテン遮光性だから、明かりが点いていない様に見えてたんだね」

「紛らわしいカーテン付けるなー!!」

ケロッとした表情で言う詠佳に、叫ぶようにして突っ込む柚希。

「それにしても、このアパートには私達しか住んでいないみたいですね」

「そうみたいね、1か月位前まではほぼビッチリ埋まってたそうだけど、入居していたのが3年生ばかりで、卒業と同時に一気に抜けていったから、今では新しく入居したあたし達だけってことになるわ」

実は、1か月前まではアパートの全室が埋まっていたが、全員が3年生だったので、卒業と同時にアパートから出て行き、誰もいなくなったほしぞらアパートに柚希が入居し、その後に詠佳、雪恵が入居したのである。

「あ、そうだ。折角だからこれから仲良くしていこうって意味も込めて、ボクの部屋で晩ごはん食べにこない?」

ふと詠佳が親睦を深めようという目的で、自分の部屋で夕食を食べないかと雪恵と柚希に持ち掛けた。

「そうね〜、あたしはまだ二人の事良く知らないから、二人がどういう人なのかを知るには丁度いい機会だし、行かせてもらおうかしら」

「私も沢嶋さんと仲良くなりたいから賛成かな」

詠佳の提案に賛成する二人。それを聞いた詠佳はガッツポーズを取った。

「よ〜し、決まり〜!じゃあ10分か20分くらいになったらウチに来てくれればいいから〜」

そう言って駆け足で自分の部屋へと戻っていく詠佳。

10分か20分って、随分アバウトなのね・・・」

「ホント、詠佳ちゃんらしいわ」

詠佳が部屋に戻ったあとに突っ込みを入れる柚希。一方の雪恵はすっかり慣れているのか、特別驚いた様子は見せなかった。そして雪恵と柚希はお互いの顔を見て笑顔を浮かべた。

「これから3年間よろしくね或羽さん」

「こちらこそ3年間よろしくね」

笑顔で握手を交わす二人、すると203号室の扉が突然開き、二人はビクッと驚いた。

「お二人さんお熱いね〜」

「なっ!鷺宮さんっ!!あんた準備してるんじゃなかったの!?」

「詠佳ちゃん〜!!」

開いた扉から顔を覗かせ、二人をおちょくる感じで言う詠佳に、顔を紅潮しながら叫ぶ雪恵と柚希。

「あはは、じゃそういう事で〜」

悪びれる様子も無く、笑いながらまた自分の部屋へと戻っていく詠佳。

「全く鷺宮さんは何考えてるのかしらっ!」

先程の詠佳の行動に怒りを見せる柚希。それを雪恵がなだめていた。

「ごめんね沢嶋さん、詠佳ちゃんいつもあんな感じだから・・・」

「いつもあんな感じって、よく或羽さんは怒ったりしないよね」

自分が怒りを覚えるほどの詠佳の態度に、怒る様子すら見せない雪恵に疑問を抱く柚希。

「確かに詠佳ちゃんと会ったばかりの頃は、詠佳ちゃんの突拍子も無い行動によく驚かせられてたけど、今はもう慣れちゃったのもあるし、何より詠佳ちゃんの楽しそうな表情を見てると怒れなくなっちゃうんだよね」

「そう言われると或羽さんの気持ちも分からなくもないね」

幸恵の詠佳に対する言葉に頷きながら納得の様子を見せる柚希。

「それじゃ詠佳ちゃんの部屋に行くまでの間は、それぞれ自分の部屋で待ってることにしましょ」

「そうした方が良さそうね、じゃあまた後で会いましょ」

「ええ」

雪恵と柚希は、詠佳の部屋に行くまでの間、自分の部屋に入って待つ事にした。

 

詠佳が自分の部屋に戻ってから15分程経った頃、それは突拍子も無く起こった。

「二人共〜、晩ごはん出来たからおいで〜」

両手に空の鍋とおたまを持ち、おたまを空の鍋に叩きながら大声で雪恵と柚希を呼ぶ詠佳。

「あんたは寮母さんかっ!」

「詠佳ちゃん、近所迷惑になるから止めて!」

雪恵と柚希が部屋から慌てて飛び出し、詠佳を止めに入る。確かにこんな事を延々と続けられては、近所迷惑になるだけでなく、恥晒しにもなってしまうからである。

「う〜ん、二人を呼ぶにはこの方法が良いかなって思ったんだけど」

「良い訳ないだろっ!」

首を傾げる詠佳に突っ込みを入れる柚希。詠佳本人は全くをもって悪気はないのだが、雪恵や柚希にしてみれば詠佳の行動は十分問題であった。

「ま、まぁともかく晩ごはんが出来たって言ってるみたいだから、詠佳ちゃんの部屋に行きましょうよ」

「そうだね、折角の晩ごはん冷ましちゃいけないし」

「そうだよ〜、こんなとこで遊んでる場合じゃないって〜」

「お前が言うな!」

そして三人は夕食を食べるため、詠佳の部屋へと入ることにした。

 

詠佳の部屋へと入った3人、詠佳は夕食の最後の仕上げをしている間、雪恵と柚希は部屋のテーブルの前に座り、夕食が来るのを待っていた。

「鷺宮さん、見掛けとは裏腹に結構部屋の中綺麗なのね」

部屋の中を見わたす柚希。詠佳の部屋の中は、ベッド、テーブル、テレビ、パソコン、いくつかの棚、タンスといった家具があるだけで、余計な物が無く、家具もきちんと整えられた感じに配置されていた。

「そうそう、詠佳ちゃん意外と綺麗好きらしいけど、いつも無邪気にはしゃいでるイメージしか思い浮かばない人多いから、この事を言うと驚かれるんだよね」

実は詠佳は綺麗好きなのだが、突拍子もない行動をする人というイメージが強く、綺麗好きということを意外がる人が多かった。

「学校の掃除当番とかも人一倍頑張ってたし、他の人があまりやらない掃除も率先してたくらいだし」

「へぇ、そうなんだ。もしかして鷺宮さんって潔癖症なのかな?」

柚希の問い掛けに、雪恵は首を横に振って答えた。

「それは違うわ、もし詠佳ちゃんが潔癖症だったら突拍子も無い行動なんてしないじゃない」

「あ〜、言われてみればそうね」

詠佳は綺麗好きなだけであり、決して潔癖症ではない。そもそも潔癖症とは、汚れや病気に対し過剰に反応するいわば精神障害の一種である。

「雪恵ちゃん、沢嶋さん、晩ごはん出来たから今持って行くね」

「「はーい」」

雪恵と柚希の返事がハモった。

その後詠佳がテーブルと台所を数回往復し、人数分の夕食がテーブルの上に乗る。

「晩ごはんはうどんなのね、でも何でうどん?」

「何かパーティみたいな感じだと思っていたんだけど」

夕食はうどんであったが、何故うどんなのかと疑問に思う雪恵と柚希。

「何でって、そりゃあ引っ越してきた日にうどんを食べる風習があったような気がしたからだよ」

「それはうどんじゃなくてそばだろっ!」

どうやら詠佳は引っ越しそばのつもりだったのだが、そもそも詠佳が作っていたのはそばではなくうどんである。

「え、違うの?」

「違うよ詠佳ちゃん、引っ越してきた日に食べるのはそばだよ。ほら、引っ越しそばって聞いた事あるでしょ?」

「う〜ん、そう言われるとそうかも〜」

詠佳は引っ越しそばでは無く、引越しうどんと勘違いしていたようだ。

「違ったとしても、食べる分には全然問題無いよね。大丈夫、味には自信あるからっ」

「そりゃそうだけど、それはともかくうどんが伸びないうちに頂きます」

「頂きます」

そう言った後、3人はうどんをすすり始めた。

「おいしいっ!」

「ちゃんとダシも聞いてるし、麺もコシがあっておいしいわ」

詠佳の作ったうどんの美味さに賞賛の声を上げる雪恵と柚希。

「ホントだ、凄くおいしい〜」

「あんた自分で作ったんでしょうが!」

詠佳は自分で作ったうどんの美味しさに感激していた。しかしその様子を見る限りでは、作った本人が言う様な言葉ではないことは確かである。

「実は味見してなくてさ、味の面でちょっと不安だったんだよね。不味かったらどうしようって」

「詠佳ちゃん、まず私達に食べさせる前に味見しないとダメだよ」

「今後の教訓にしていきたいと思います!」

何故か敬礼して言う詠佳。柚希は詠佳を見て、本気なのかボケているのかいまいち分からなかった。

「そういや詠佳ちゃん、料理してるとこ初めて見るけど、料理得意だったっけ?」

「いやぁ、そういう訳じゃないよ。料理はまだ始めて1ヶ月位だし〜」

頭を掻きながら照れ臭そうに言う詠佳。

「1ヶ月でこんなに美味しいのが出来ちゃうの!?何か凄いわ鷺宮さん」

雪恵よりも、この話に一番食い付いたのは柚希だった。

「そうかな〜、あんまり気にしてなかったから、凄いかどうかって言われるとちょっと分かんないな」

「ホント、詠佳ちゃんって凄いのか凄くないのか、今でもよく分からないのよね」

苦笑を浮かべながら言う雪恵。幼馴染みでもある雪恵ですら詠佳のことを理解しきれてない面があるほど詠佳は良く分からない人であった。

 

夕食を食べ終わった3人は、詠佳の部屋のテーブル越しで雑談をしていた。

「そういや気になってたけど、鷺宮さんはいつから一人称をボクって言う様になったの?」

「私も気になるわ。私が詠佳ちゃんと会った時からもう一人称ボクって言ってたから」

話題は、詠佳の一人称が何故ボクなのかについてだった。話題に振られた詠佳は少し考えてから雪恵と柚希にこう言った。

「ボク自身よく覚えてないけど、物心ついた時にはもう既に一人称がボクだった気がするよ」

詠佳自身も何故一人称がボクなのかはあまり覚えていないようで、気が付いた時には自然に使っていたという。

「私は慣れてるからあまり気にならないけど、学校では一人称ボクっていうのは控えた方がいいかもしれないわね、他の人に変な目で見られたりもするから」

「いや、ちょっと待って或羽さん、それ何で小学校や中学校の時に鷺宮さんに言わなかったの?」

「あ、そういえば」

柚希に指摘され、慌てて気付く雪恵。何故今までそう言わなかったのかと不思議に思う柚希。

「そうだねぇ・・・、今まではあまり気にしてなかったけど、学校始まってからは気を付ける事にするよ」

雪恵の指摘を受けて、一人称の使い方を気を付けることにする詠佳。今までは人前でボクと言う事をあまり気にしてはいなかった様だ。実際小学校や中学校の頃も、最初はクラスメイトに驚かれてはいたが、段々それに慣れてくると誰もその事を気にしなくなっていた。しかも詠佳はクラスの中でムードメーカーだった為か、変わった一人称を使っているのにも関わらず、いじめの対象になることはまず無かった。

「じゃあ試しにさ、一人称にボクを使わないであたし達に自己紹介してみてよ」

「うん、分かった」

柚希の提案に素直に答える詠佳。雪恵は少し不安そうな表情を浮かべていた。

「じゃあいくよ、コホン、私は鷺宮 詠佳、星雲高校の1年生です」

咳払いを一つし、ボク以外の一人称で柚希と雪恵に自己紹介をする詠佳。

「普通に言えてるじゃん」

「全く違和感を感じなかったよ」

あまりに違和感無く言えている事に、期待外れな感じの柚希。それと対照的に雪恵はホッとした表情を浮かべていた。

「うん、一人称私って言うのも悪くないかも、学校では私で通そうかな」

詠佳はまるで自分が変わったかの様な感じで喜んでいた。

「でもあたし達の前では変わらずボクのままなんでしょ」

「まぁ、そうなんだけどね」

笑顔で答える詠佳。柚希は穏やかな表情をしていた。

(きっと、それが鷺宮さんの一番の特徴かもしれないわね)

 

「そうだ、鷺宮さんと或羽さんは携帯持ってる?」

柚希は詠佳と雪恵に携帯電話を持っているか聞いた。

「はい、最近買ったばかりですが持ってますよ」

「ボクも持ってるよ〜」

「じゃああたしとメアド交換しない?」

柚希が二人に携帯電話を持っているかを聞いたのは、メールアドレスの交換を持ち掛けたからだ。

「詠佳ちゃん、メアドって何?」

メアドという言葉の意味を知らない雪恵に詠佳が答えた。

「メールアドレスのことだよ、このアドレスを他の人と交換するとその人と文章でやり取りする事が出来るんだよ」

「そうなの、携帯電話ってただ電話するだけじゃないのね」

「それいつの時代の携帯電話だよ・・・、というより或羽さんってしっかりした人だと思ったけど、意外と世間知らずなとこもあるのね」

「あはは、そうみたいだね」

「?」

意外と世間知らずな一面を持つ雪恵に、詠佳と柚希は意外だなと思っていた。そして当の本人である雪恵は二人の様子がよく分からなかった。

「それはともかくメアド交換始めようか」

「そうだね」

詠佳達3人はそれぞれの携帯電話のメールアドレスを交換し合った。メールアドレスの交換の仕方が分からない雪恵は、詠佳と柚希に教えてもらいながら、詠佳と柚希のアドレスを交換した。

「或羽さん、鷺宮さん、これからはあたしの事“柚希”って呼んで、せっかく仲良くなったんだし、名字で呼び合うのも何か堅苦しいしね」

「そうね、私も“雪恵”と呼んでくださいね柚希ちゃん」

「ボクも“詠佳”でいいよゆずっぴー」

「うん、分かったよ、・・・って詠佳ちゃん、それあたしのあだ名?」

詠佳だけ違う呼び方をされた事を気にする柚希。

「そうだよ〜」

「う〜ん、別に悪くはないんだけど、今まであだ名とか付けられたこと無かったから、何か恥ずかしいんだよな〜」

あだ名を付けられたことに嫌気はないものの、恥ずかしいというより照れている柚希の顔は赤く染まっていた。

 

「あら、もうこんな時間だわ、そろそろこの辺でお開きにしましょう」

「そうだね、もう夜の10時だし、この部屋の住人は物凄く寝むそうだしね」

部屋の壁に掛けてある時計は、夜の10時を示していた。

「ふあぁぁぁ〜」

部屋の住人である詠佳は周りの目を気にすることなく、大きなあくびをしていた。

「じゃああたし達はそろそろ帰るね」

「また明日ね、詠佳ちゃん」

「帰るって、部屋の部屋に戻るだけじゃん」

眠気眼を擦りながら二人に言う詠佳。

「いちいち突っ込まなくていいって!」

「まぁまぁ・・・、それじゃあね詠佳ちゃん」

二人は詠佳の部屋を出てそれぞれの部屋へと戻っていった。その後詠佳はすぐに部屋の電気を消し、ベッドの布団の中に潜り込む。

「雪恵ちゃんとゆずっぴ―と同じクラスになれたらいいなぁ〜・・・」

そう言った後、詠佳はすぐ眠りについた。

 

そして、その二日後の43日のクラス発表当日、詠佳の望み通り、雪恵と柚希と同じクラスの1B組となった詠佳は、雪恵と柚希と一緒に笑顔で喜び合っていた。

これから詠佳達3人にどんな学生生活が待ち受けているのかはまた次回のお話で。

 

 

第一話 おわり、第二話につづく

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