お気楽Girl! 特別編その一 帰省!
「そういや一人暮らし始めてから、初めて実家に帰るんだよなぁ〜」
あたしは沢嶋 柚希、あたしは今、電車に揺られながら、実家のある神奈川へと帰る途中なの。丁度学校も夏休みの最中だし、久々にお父さんとお母さんに顔見せるだけじゃなく、地元の友達にも会いたいのもあるしね。
「泉美とはつい最近会ったばかりだけど、他の人達は元気にしてるかな・・・。あと泉美にこれ返さなきゃね」
あたしはいつも出掛ける時に持って行ってるショルダーバックの他に、この前泉美が来た時に汗だくで濡れた泉美の衣服の洗濯したものを入れた紙袋も一緒に持っていた。これは泉美の家に遊びに行った時に返そうと思っているの。
「あ、そろそろ降りる駅に着くわね」
気が付くともうすぐ降りる駅へと着こうとしていた。あたしはすぐに降りれる様に、降りる準備をした。
* * *
「やっぱこっちも暑いわね〜・・・、それに日差しもきついし」
駅の改札をくぐり抜けて駅から出ようとしたけど、外はきつい日差しに加え、猛烈に暑いから、あたしは思わず外に出るのを躊躇したの。
「一応日傘は持ってきてるけど、それでも暑い事には変わりないんだろうな・・・」
日差し避けに日傘を持って来てはいたんだけど、例え日傘をさしていたとしても、さすがに暑さまでは防げないよね・・・。
「この猛暑で熱中症になる人も多いから、しっかり水分補給はしないといけないよね」
あたしはそう言って、飲み物を買う為に近くの自販機の前へと行く。
「ジュースとかお茶だと十分に水分補給出来ないから、ここはやっぱりスポーツドリンクの方がいいよね」
猛暑にはお茶やジュースよりスポーツドリンクの方が十分に水分補給が出来るって聞いた事があったから、スポーツドリンクを選んだの。だけどホントの事言うと、スポーツドリンクの味って少し苦手なんだよね、あたし・・・。
「それじゃそろそろ実家に向かうことにしよう」
あたしは日傘をさして、灼熱地獄と化している外へと出る事にした。
「あっづ〜い・・・、日陰ですら全然涼しくないし・・・」
外の暑さは尋常じゃなかった・・・。日なたはともかく、日陰ですら普通に暑いし・・・、ただ日陰だと日差しが当たらない分、少しはマシなんだけどね、・・・ほんの少しだけ。
あたしは出来るだけ日陰の中を歩いていたんだけど、それでも汗がどんどん出てくるから、正直嫌になっちゃうよ・・・。
「これならいつ熱中症になってもおかしくないわね・・・」
暑さに何とか耐えながらも、実家へと向かっていた・・・多分。
「やっと着いた〜・・・、にしても4ヶ月ぶりか〜」
中心部から少し離れたとある住宅街の中、あたしの目の前には、物凄く見覚えのある、というか懐かしい感じの家が建ってあった。そう、ここがあたしの実家なの。
「それじゃ暑いし早いとこ入ろうっと・・・」
実家の鍵は持っていたので、その鍵を使って扉を開けて家へと入るあたし。
「あら、柚希帰って来たのね、おかえり〜」
「おぉ、今日辺りに帰ってくるとは聞いてたけど、おかえり柚希」
「うん、ただいま。お父さん、お母さん」
家に入って早速お父さんとお母さんがあたしを迎えてくれた。えっと、因みにあたしは一人っ子だから、弟とか妹とかはいないけどね。
「そうだ柚希、学校では上手くやっているのか?」
「うん、学校でも友達出来たし、一人暮らしも少しずつだけど慣れてきたから、今のところは順調かな」
あたしはお父さんに学校や一人暮らしがとりあえず上手くいっている事を伝えた。
「そうか、ちゃんと友達も出来てるんだな。柚希も小さい頃は物凄い人見知りで、中々友達が出来なかったんだよな」
「そう言えばそうだったわね、だけど柚希が今の様に明るくなったのも泉美ちゃんのお陰なのよね〜」
「確かにその通りだけどね・・・」
お父さんとお母さんの言う事に、思わず苦笑いで答えるあたし。確かにあたしは昔、人見知りで内気な性格だったんだよね〜。
「それはそうと、外暑かったでしょ、着ている服も汗で濡れてるし、シャワーでも浴びてきたらどう?」
「うん、そうするよ」
あたしは汗だくの体を洗い流したかったから、荷物を置いた後すぐにシャワーを浴びることにしたの。
「ふ〜、スッキリしたぁ〜」
シャワーを浴び終わり、再びお父さんとお母さんのいる茶の間へと戻っていた。勿論さっきとは違う服に着替えてるけどね。それにしても、やっぱり実家の浴室は今住んでるアパートの浴室よりも広かったなぁ〜って思ったわ。
「丁度良かった柚希、今母さんがスイカ切ったところだから食べるか?」
「そうだね、丁度食べたいなぁって思っていたところなんだ」
お父さんが言うには、お母さんがスイカを切っているとの事だったので、あたしは迷う事なくスイカを食べる事にした。
「ん〜、やっぱこの時期に食べるスイカは美味しいねお父さん」
「そうだな、ところで柚希は今日三並さんの娘さんに会いには行かないのか?」
「いや、もうちょっと家でゆっくりしてから行こうかなって思ってるの、久々にお父さんとお母さんと会ったから、もう少しだけお父さんとお母さんに甘えていたいかな〜って思ってるんだけど・・・、あはは、もうそんな歳じゃないよね、あたし」
あたしはスイカを食べながらお父さんにこう答えたの。詠佳ちゃん達と一緒にいる時は、自分がしっかりしなきゃって思うけど、今はその・・・、お父さんとお母さんに甘えていたいなって思ったの。だってこれからお父さんとお母さんに会える機会ってそんなに多くない訳だしね。
「いや、そんな事はないぞ、柚希が父さんと母さんに甘えたいと思えば甘えればいい、ただし度合いによるがな」
「うん、ありがとうお父さん」
お父さんの言葉には、優しさもあるけどちゃんと厳しいとこもあるから、あたしにとっては、その言葉が何よりも嬉しかった。
「じゃ、じゃあさお父さん、早速だけど甘えてもいいかな?」
「あぁ、何だい柚希?」
「あのね・・・、頭をなでて貰いたいんだけど、いいかな・・・?」
あたしは恥ずかしかったけど、お父さんに頭を撫でて貰いたかったの。これは何と言うか・・・、あたしなりの甘え方かな、それ以外に特に何も思い浮かばなかったのもあったけど。
「え?あぁ、それはいいが、本当にそれだけでいいのか?」
流石に不思議に思ったのか、もう一度あたしに確認を取るお父さん。確かにいきなり頭を撫でて欲しいって言われて戸惑うのも無理ないよね。
「うん、それだけでいいの」
「あぁ、分かった」
あたしはお父さんに頭を撫でてもらったの、撫でられる事が嬉しかったのと同時に、何だか懐かしい感じだった。
「そういや今思い出したんだが、柚希は何かあった時に父さんや母さんに頭を撫でて欲しいって頼んできて、撫でて貰う度に嬉しそうな顔をしてたな」
「えへへ、そう言われるとそうだったね、あたしね、お父さんやお母さんに頭を撫でてもらうと嬉しかったし、何より安心した気持ちになってくるのもあったからかな」
何ていうか、お父さんやお母さんに頭を撫でて貰うと、不安な事とか怖かった事とか振り払えて、気持ちも落ち着けるの。
「柚希、そろそろ止めてもいいか?父さん腕が疲れてきたよ」
「そうだね、もう手を下ろして大丈夫だよ。お父さん撫でてくれてありがとうね」
「あぁ、柚希が嬉しいと思えば父さんも嬉しいよ」
お父さんはあたしの頭を撫でていた手を下ろす。お父さんの顔を見てみると、嬉しそうな顔をしていた。やっぱり娘のあたしに会えて嬉しかったんだね。
「うふふ、お父さんも柚希も嬉しそうにしてるわね、ホント仲の良い親子よね」
柚希と柚希の父から少し離れた場所で、見守る様に2人を見ている柚希の母であった。
* * *
「それじゃ泉美の家に行ってくるね」
「えぇ、行ってらっしゃい」
あたしはショルダーバックと泉美の服が入った紙袋を持って、泉美の家へとむかうことにしたの。家から出る時、お母さんがあたしを見送ってくれた。
「えっと確か、泉美の家はここから数件先の家だったよね」
泉美の家は、あたしの実家から確か3件先の家がそうなの、そういや泉美の妹の葵ちゃん元気にしてるかなぁ・・・。
「と、もう着いちゃったんだけどね、泉美の家に」
さすがは近所に住んでいるだけあって、あっという間に泉美の家の前に着いちゃった。
「そういや今日帰って来た事を泉美に伝えるの忘れちゃったから、いるのかなぁ・・・?」
実はあたしとした事が、泉美に今日地元に帰ってくる事を伝えるのを忘れちゃったんだよね・・・。他の友達には、地元に帰る事をちゃんと伝えたんだけど・・・。
なので、泉美が家にいるのか心配だったけど、あたしは家のインターホンを押す。
「は〜い、どちら様ですか?・・・あ、柚希さんじゃないですか、お久し振りですね」
玄関の扉が開き、中から出て来たのは、泉美ではなく妹の葵ちゃんだった。
「あ、葵ちゃんお久し振り、元気だった?」
「はい、私はこの通り元気ですよ。そう言えば柚希さんいつ頃帰って来てたんですか?お姉ちゃんも柚希さんがいつ頃帰ってくるかは知らないようでしたし」
「あっはは〜・・・、ゴメンね葵ちゃん、実はあたし今日こっちに帰って来たんだけど、泉美お姉ちゃんに伝えるの忘れちゃって・・・」
あたしは葵ちゃんに泉美にあたしが帰ってくる事を伝え忘れた事を正直に打ち明けた。葵ちゃんは聞いた直後は少し動揺していたけど、すぐに落ち着きを取り戻した。
「え、そうだったんですか!?えっとお姉ちゃんですけど、今部活でまだ帰って来てないんです・・・」
「そうなの・・・、ゴメンね葵ちゃん、突然押し掛けちゃって。じゃあまた後から来るね」
泉美がまだ家に帰って来てない事を確認したあたしは泉美の帰りを待つ為、実家へ戻ろうと玄関から離れようとした時、
「あ、待って下さい柚希さん!多分お姉ちゃんもそんなにしない内に帰って来ますので、それまで家の中で待ってもらいませんか?」
葵ちゃんはあたしを呼び止めて、泉美の家の中で待ってていいと言った。本来なら即OKって言いたいところだけど、あたしにはそれが出来ない理由があった。
「確かに葵ちゃんの気持ちは嬉しいけど、葵ちゃん今年受験生じゃなかったっけ?さすがに邪魔しちゃ悪いと思うんだよね・・・」
「いえ、そんな事ありません!私も久しぶりに柚希さんに会えて嬉しいですし、柚希さんに話したい事もありますから、是非家で待って欲しいのですっ!」
実を言うと葵ちゃんは中学三年生であると同時に受験生でもあるから、あたしは葵ちゃんの受験勉強の邪魔しちゃいけないと思って、素直にOKしなかったんだけど、葵ちゃんは逆にあたしに家で待って欲しいと迫って来た。
「う、うん・・・、じゃあお言葉に甘えて家で待とうかな・・・」
葵ちゃんの気迫に押し負ける様な形で、泉美の家の中で待つ事にしたの。泉美と違って、普段は大人しい葵ちゃんでも、こういう時は泉美と似ているんだなと改めて思い知ったわ・・・
そんな訳で、葵ちゃんに言われるがまま泉美の家へと入る私。家の中には葵ちゃん以外に泉美と葵ちゃんのお母さんもいたの。
「柚希ちゃんお久し振りね〜、元気にしてた〜?」
「はい、こちらこそお久し振りです」
泉美と葵ちゃんのお母さん、もといおばさんはとても気さくな人で、本来なら家族でもないあたしに対しても、家族の一員の様に接してくれて、時に悩み事も親身になって聞いてくれるから、あたしにとって第2のお母さんだと思える人なの。
「そういえば、高校から一人暮らし初めたって聞いたけど、ちゃんと生活出来てる?」
「はい、もちろん最初の頃は慣れないことばかりで戸惑ったりもしましたけど、今は段々と慣れてきた頃ですね。それに同じアパートに住む友達もいるから、時々その友達と一緒になる事もありますね」
「ちゃんと友達もできてるのね、それなら大丈夫だね。うちの泉美は人付き合いは上手なんだけど、生活力が欠けてるから、一人暮らしをさせるにはまだまだ不安な箇所も多いし、葵は生活力はあるけど、積極性が足りないから、人付き合いの面で心配なのよね〜」
泉美のことはともかく、すぐ近くに葵ちゃん本人がいるのに躊躇なく葵ちゃんの欠点みたいなの言ってるけど大丈夫なのかな〜?
「お母さん、そんな言い方で言わないで下さい!確かにお姉ちゃんに比べたら積極性はないかもしれませんけど、別に人付き合いが苦手な訳じゃないんですよ。私にだってちゃんと友達はいますし」
やっぱり葵ちゃんが反論したわね、まぁ当然と言ったら当然だけど・・・。
「あはは、ゴメンね葵、私もそこまで知らなかったからつい言いすぎちゃったかも」
「もうお母さんったら・・・、柚希さん、お母さんの私に対するあの言い方ひどいと思いますよね!」
「え!?う、うん、そうよね、確かにひどいと思うわね」
葵ちゃんに突然振られて思わず焦ったわ、まさかあたしに話を振ってくるとは思ってなかったから。
「そんな事より私の部屋行きましょう柚希さん!」
「え、ちょ、葵ちゃん!?」
葵ちゃんはあたしを引っ張りながら自分の部屋へと向かう。というか葵ちゃんってこんなに強引な子だったっけ〜!?
何だかんだ葵ちゃんに振り回されたあたしは、葵ちゃんの部屋へとやって来ていた。
「ごめんなさい、柚希さんを振りまわしてしまって・・・、お母さんにあんな言い方されたからつい熱くなっちゃって・・・」
「いいよいいよ、あたしだって葵ちゃんと同じ立場だったら、間違いなく葵ちゃんと同じ事してたしね」
あぁ、そういう事だったんだ、確かに葵ちゃんがそうなるのも分かる気がするわ。
「まぁ、それはともかく、あたしが葵ちゃんが入るのって、今回が初めてな気がするんだけど、間違ってないよね?」
「はい、そうですね。今まで柚希さんを私の部屋に入る機会がありませんでしたからね」
葵ちゃんの部屋の中は始めて見たけど、物とか散らかっておらず、家具の配置もきれいにまとまっており、部屋の色も“あおい”という名前だけあってか、青色で統一されていた。
「葵ちゃんの部屋って、青色で統一されてるからなのかな、涼しげな印象があるよね」
「そうですね、でも逆を言うと寒い時期はより寒く感じてしまうんですよ」
「あ〜、分かる気がする」
ふとあたしは机の方に目を向ける。机の上には高校受験対策の問題集や書籍が置いてあった。一緒に置いてあるノートもきっと高校受験に関する事が書かれていると思う。
「ところで、葵ちゃんはどこの高校に受験する予定なの?もしかして泉美お姉ちゃんと同じ高校?」
「いいえ、私は星雲高校に受験しようと思っているんです」
「え・・・、えぇ〜っ!葵ちゃん星雲高校に受験するの〜!?」
まさか葵ちゃんが星雲高校に受験するなんてびっくりしたよ〜、あたしてっきり泉美と同じ高校に進学するかと思ってたからなぁ・・・
「どうしたんですか柚希さん!?星雲高校に受験しちゃダメだったんでしょうか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど、実はあたし、その星雲高校に通ってるんだよね」
「そうだったんですか!?じゃあ私が星雲高校に入学すると、柚希さんは私の後輩になるんですね」
嬉しそうな顔で言う葵ちゃん、確かに葵ちゃんが後輩として同じ学校に入学するのは嬉しいんだけど、それと同時になんか複雑な気分になるんだよな〜・・・。葵ちゃん、あたしより年下でもあたしより頭良いし、出来のいい子だし・・・。あたしがそう考えていた時、玄関の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ただいま〜、柚希うちに来てる〜?」
「えぇ、来てるわよ。多分葵の部屋にいると思うわ」
「分かった、ありがと母さん」
あれ?ちょっと待って、何で泉美はあたしがここに来てる事知ってるの!?あたし、泉美には今日帰ってくるって伝えるの忘れて、分かんないはずじゃあ・・・
「柚希さん、お姉ちゃん柚希さんが今日帰って来てる事知ってるみたいですね、ホントにお姉ちゃんには今日帰ってくる事は伝え忘れたんですよね?」
「うん、そうなんだけど・・・、でも何で泉美は知ってるんだろう・・・?」
何故泉美があたしが帰って来てる事を知っているのか、今のあたしには分からなかったわ。
「それにしても、何で柚希は葵の部屋にいるんだろう、あんまり葵と関わる様な事してないはずなんだけど・・・」
あたしにしてみれば、関わる機会が少ないはずの葵と柚希が何故葵の部屋に一緒にいるんだろうと思いつつ、葵の部屋の扉を開ける。
「葵〜、この部屋に柚希いる〜?」
「うん、ここにいるよお姉ちゃん」
葵の顔の向いている方を見ると、そこには柚希の姿があった。
「どうもお邪魔してま〜す・・・」
「中学校の時の同じクラスの友達から聞いたんだけど、柚希今日こっちに帰って来てたんだね、でもなんであたしには何の連絡もなかったんだろう?」
「あ、あのね、あたしのうっかりで泉美にだけ伝えるの忘れちゃっただけで、勿論悪気があった訳じゃないから!」
「へぇ、そうなんだ。あたしも友達から聞くまで今日帰ってくる事知らなかったしね」
その事を聞いて、焦りの様子を見せる柚希。本当ならもっと詳しく聞いてみたいけど、柚希の事を考え、あえて聞く事をしないことにした。
* * *
「この前柚希のとこに行った時にこっちへ帰ってくるとは聞いてたけど、まさかこんなにも早く帰ってくるとは思わなかったよ」
「まぁ、まだ夏休みだしね」
泉美はあたしが今日帰って来た事に驚いてる様子だったけど、そんなに驚くことかなぁ・・・。まだどこの学校も夏休みだし。あ、そうか、泉美はつい最近あたしの住んでるアパートに遊びに来ていたから、泉美にしてみれば帰りが早いって感じたのね。
「それにしても、この前遊びに行った時思ったけど、あたしがいなくてもちゃんと友達出来てるじゃない」
「そりゃあ泉美がいなくても友達は出来るって」
「よく言うよ、昔はあたしに話すのだってやっとだったのにさ」
「いやっ!?それは・・・」
あたしは泉美の言うことに否定出来なかった、というより泉美の言ってる事は紛れもない事実だからね・・・。
小さい頃のあたしは、今のあたしとは違って人見知りが激しく、その上暗い性格で、加えて泣き虫だったの。だから人と話すことが何よりも苦手で、そのお陰で友達と言える友達は殆どいなかった。いるとしたら・・・、そう、泉美くらいしかいなかったわ。
「ねぇ泉美ちゃん、あたしどうしたら泉美ちゃんの様に明るくなれるのかな・・・?」
あれはあたしが小学6年生の頃、思わず昔の泉美に今まで心の中に閉まっていた自分の悩みを打ち明けてみたの。因みにこの時はまだ泉美ではなく、泉美ちゃんと呼んでいた。
「え、あたしの様な明るい性格になりたいって?急にそんな事言いだしてどうしたの柚希?」
昔の泉美は昔のあたしの打ち明けた自分の悩みを不思議そうな顔をして昔のあたしに聞き返してきた。
「いや、あのね・・・、あたし達来年から中学生じゃん。それまでに今のあたしの人見知りと暗い性格直したいって思っているの」
「う〜ん、そっか〜、確かに柚希はあたしから見ても人見知り激しそうだし、性格も暗いしねぇ〜」
「はうっ、そこまではっきり言わなくても・・・」
思わず涙を浮かべる昔のあたし、ホントこの頃は泣き虫だったんだよなぁ・・・。
「ゴメンゴメン、それで要するに柚希は人見知りと暗い性格を直したい訳か〜」
昔の泉美は数分考え込んだ後、こんな結論を出した。
「そうだ、案外単純なことなんだけど、自分に自信を持ったらどうかな?」
「自分に自信を持つ・・・?」
昔のあたしは昔の泉美の言っていることの意味が分からなかったの。まぁ、今となってはその言葉の指してる意味が分かったんだけどね。
「そう、自分に自信を持つ事なのよ、小さい頃から柚希を見てきたけど、いつも自分に自信なさそうに見えるんだもの。多分人見知りや暗い性格もそのせいだとあたしは思うの」
「そうなんだ・・・、だけど泉美ちゃん、どうやって自分に自信を持ったらいいのか、あたし分からないんだけど・・・」
昔の泉美の言うことには納得したけど、自分に自信を持つ方法が分からなくて戸惑う昔のあたし。
「まぁ、いきなり言われてもどうしていいか分からないよね、それなら積極的に人に話すことから始めようよ」
「でも、あたし知らない人と話すの苦手だし・・・」
「だから、その前にまずは良く知っているあたしに対して積極的に話す事にしよう!柚希ったら、あたしですら自発的に話す事なんて殆どなかったじゃない、少しでも自発的に話せる様になれば、自然と自分に自信を持てる様になるし、人見知りも暗い性格も直ってくと思うよ」
ウインクしてこう言った昔の泉美。
「うん、あたし頑張ってみるよ!」
「その意気だよ柚希!あたしも全力で応援してあげるからさ」
このやり取りを境に、あたしは積極的に話していこうって決めて、まず最初は泉美やお父さんとお母さんから初めて、慣れてきた頃にはクラスの人達と普通に話せる様になっていったの。更にいつの間にか人見知りもしなくなってたし、性格も徐々に明るくなってきて、今の感じになってたしね。
「だけど泉美のお陰で今のあたしがいるんだよね、今でもその事は感謝しているんだよ」
「よしてよ、そう言われると照れるじゃない」
照れている様子の泉美、やっぱ泉美もあたしが変われた事が嬉しかったんだろうね。もちろんあたしも自分が変われた事には嬉しかったけどね。
「あとそういやこの髪型にするきっかけを作ったのも、泉美のお陰なんだよね〜」
「あ〜、そういやそうだったね、あとメガネを外すきっかけもね」
あたしの今の髪を後ろに束ねた髪型と、メガネを外すきっかけを作ったのも、泉美が関わっていたの。
人見知りと暗い性格も直って、順調に友達も増えていった中学2年生の頃、泉美があたしの方も見てこう言ったのが始まりだった。
「柚希〜、ずっと思っていたんだけどさ、柚希って、見た目が何か地味に見えるんだよねぇ〜」
「え?いきなり何言い出すのさ、それにしてもそんなに地味に見えるのあたし?」
「そうね、中途半端に長い髪を下ろした髪型に、大きな丸型レンズのメガネだもの。折角性格が明るくなってきてるのに、そんな地味な印象だと、どうしても陰気な感じが出ちゃうと思うんだよね」
中学生の頃の泉美の言う通り、中学生の頃のあたしは今と姿と違って、髪も下ろしており、大きな丸型レンズのメガネを掛けていたの。因みにあたしは雪恵ちゃんほどじゃないけど、視力が低い方で、軽い度だけどいつもメガネを掛けていたわね。
「それはあたしの自由じゃないかな?別に泉美ちゃんに格好の事でどうこう言われるのはおかしいと思うけど・・・」
中学生のあたしは、中学生の泉美に自分の格好をバカにされたと思い込んで、その事を否定したの。
「いや、あたし別にそういう感じで言った訳じゃないんだけどなぁ・・・」
「じゃあどういう意味で言ったの?」
「何て言うのかな・・・、あ、そうそう、イメチェンってやつよ。折角内面も変えられたんだから、見た目もそれに合わせて変えた方がいいと思うんだよね」
あまりファッションの事とか知らない泉美がどうしてあたしの見た目を気にし出したんだろう、その訳は未だに分からないままなんだけどね。
「イメチェンか・・・、確かに髪型とか変えてみてもいいかな・・・」
「じゃあ早速変えようよ柚希!」
「え、いきなりなの!?」
「いいからいいから、あたしに任せなさいって」
「ひぃ〜〜〜っ!!」
今にも襲いかかって来そうな形相の中学生の泉美に、中学生のあたしは怖くなってその場から動けなかった。そして中学生のあたしは中学生の泉美にされるがままに髪型等を変えられたのだった・・・。
「よし、これで終わり〜」
「まさか変な格好にしてないでしょうね・・・?」
「まぁ鏡を見てみなって」
泉美のことだから、きっと変な風にしたんだと疑う中学生のあたしをよそに、中学生の泉美は中学生のあたしに鏡を見る様に薦めたの。
「どんな感じになってるのかしら、あ・・・」
恐る恐る鏡を覗く中学生のあたし、そして鏡に映っていたのは、下ろしていた後ろの髪をヘアゴムで纏めてあり、大きな丸型レンズを外してある中学生のあたしの姿だった。
「これって、あたしなんだよね・・・?」
「そうだよ、中々センスあるでしょ〜」
自慢げに言う中学生の泉美。
「うん、泉美ちゃんにしてはセンスいいと思うよ。あたしもこの髪型気に入ったよ」
泉美としては珍しく、中々センスのあるものだった。これにはあたしも普通に驚いたわ。
「そうでしょ〜、それに気に入ってくれたなんてあたしも嬉しいよ。ただ“泉美ちゃんとしては”ってのは余計だったけどね」
「あぅぅ、ゴメンね泉美ちゃん・・・」
「別にあまり気にしてなかったけどね。でさ、これからその髪型で学校に行くの?」
「うん、そうしようかな。折角泉美ちゃんがあたしの為にこの髪型にしてくれたんだしね」
「柚希ならそう言うと思ってたよ」
この日を境に、あたしは基本的にこの髪型にし、時々メガネを外していくことにしたの。メガネに関しては、あたし視力低いから、常に外すってことは流石に出来なかったけどね。
「そう考えると、あたしは泉美に色々助けられたんだね・・・」
「みたいだね、でも柚希がここから離れる時に貰った柚希とお揃いのヘアピンさ、今でもちゃんと付けてるんだよ」
そう言って泉美はあたしに前髪に付けているヘアピンを見せる。確かにあたしが付けているのと同じヘアピンで、アパートに引っ越しする時にあたしが泉美にあげた物だった。
それは今年の3月下旬の「ほしぞらアパート」へと引越しする日、荷物を全てトラックの荷台に詰め終え、後はあたしが引っ越し先へ向かうだけだった頃、あたしを見送る為に泉美と中学生の頃の友達の瑞穂ちゃんがあたしの見送りに来ていたの。
「元気でね柚希ちゃん、高校行っても頑張ってね。私も地元の高校だけど、頑張るから。あと、時々連絡し合おようね」
「うん、そうするよ。瑞穂ちゃんも高校行っても頑張ってね」
「うんっ!」
笑顔で見送りの言葉を送る瑞穂ちゃん。えっと、彼女は天宮 瑞穂(あまみや みずほ)と言って、あたしの中学生の頃の友達。今は泉美とは違う地元の普通高校に通ってるの。
「とうとうあたしから離れる時が来たんだね柚希」
「えぇ、これまで色々とあたしを助けてくれてありがとう泉美ちゃん。本当に感謝してるんだから」
「何言ってるのさ、あたしは柚希が変われるきっかけしか作ってないよ」
確かに泉美の言う通り、泉美はあたしを変えるきっかけを作っただけに過ぎないんだけど、それでもあたしにとっては凄くありがたいものだった。
「まぁ、そうなんだけどさ。あ、そうだ、泉美ちゃんと瑞穂ちゃんにプレゼントがあるの」
「「えー、何々?」」
泉美と瑞穂ちゃんは声をハモらせた。
「そんなに凄いものじゃないけど、これなんだ」
そしてあたしは上着のポケットからそのプレゼントを取り出した。
「これって・・・」
「ヘアピンよね、しかも同じのが3つも」
プレゼントの正体は、3個の同じ形の黄色いヘアピン、どうして同じヘアピンが3つなのかというと、もちろんちゃんとした理由があるんだけどね。
「これはね、あたしと泉美ちゃんと瑞穂ちゃん3人分なの。それでこのヘアピンはあたし達の友情の証」
「つまりお揃いにする事で、私達が離ればなれになっても忘れる事はないわね」
「友情の証か・・・、柚希も粋なこと考えたわね」
「えへへ・・・」
思わず照れ笑いするあたし。
「折角貰ったんだし、今からこのヘアピン付けましょうよ」
「そうね、閉まっとくのも勿体ないしね」
「ほら、柚希ちゃんも付けようよ」
「あ、うん」
あたし達3人は早速ヘアピンを付ける事にした。
「わぁ〜、柚希ちゃんも泉美ちゃんも似合ってるじゃない」
「そういう瑞穂も似合ってるよ。それと、ヘアピンありがとうね柚希」
「えへへ、私からもヘアピンありがとうね、柚希ちゃん」
泉美と瑞穂ちゃんはあたしがプレゼントしたヘアピン喜んでくれたみたい。そういやヘアピンの付けてる位置だけど、あたしと泉美は右側、瑞穂ちゃんは左側に付けていたわ。
「2人が喜んでくれてあたしも嬉しいよ。あ、そろそろ行かなきゃ、またいつか会おうね泉美ちゃん、瑞穂ちゃん」
「待った柚希!」
「え、どうしたの何泉美ちゃん?」
あたしは待たせているお父さんの車に向かおうとした時、急に泉美があたしを呼び止めた。
「柚希、これからはあたしの事ちゃん付けしないで呼んでもらえるかな」
「え、でも・・・」
「あたし正直ちゃん付けで呼ばれるのむず痒かったんだよね〜、それに今なら丁度いい機会だと思ったからさ」
おどおどするあたしをよそに、泉美はかったるそうにこう言った。これは多分あたしの事を思った泉美なりの気遣いだったんだと思う。
「それじゃあ・・・、うん、またいつか会おうね泉美!」
「な〜んだ、やれば出来るじゃない。・・・じゃあ、元気でな」
「元気でね泉美ちゃん」
「うん・・・、ありがとう・・・」
あたしは嬉しくて思わず涙が出てしまった。嬉しかったのもあったし、それと同時に泉美と瑞穂ちゃんと別れるのが寂しかったのもあったの。
「全く・・・、これから新しい場所での生活が始まるってのに、何泣いてるのさ・・・」
「だって・・・」
「もう・・・、そういう泉美ちゃんだって泣いてるじゃない・・・」
「うるさいなぁ・・・、瑞穂だって泣いてるじゃないか・・・!」
「みんなお互い様なのよ・・・」
いつの間にか泉美も瑞穂ちゃんもあたしに釣られて泣いていた、2人もやっぱり別れる事は寂しかったんだ。
「とにかく、早くお父さんの元に行きなよ、いつまでも待たせるのは良くないよ」
泉美は涙を拭ってあたしにこう言った。その言葉を聞いてあたしも涙を拭って泉美と瑞穂の元から離れた。
「今度こそ本当にお別れだね、またいつか会おうね〜っ!!」
そう言った後、あたしは車の方に振り向いて走り出した。その間、あたしは一度も泉美と瑞穂ちゃんの方には振り向かなかった、振り向いたら行けなくなる気がしたから・・・。
そしてあたしは星雲高校の近くにある『ほしぞらアパート』へと引っ越していったの。
「そうそう、結局別れ際でも泣いちゃったんだもんね、あたし」
「全くだよ、あたしもあの場面で泣かれるなんて思ってもなかったしさ」
何年たっても泣き虫なとこだけは変わってないもんなんだね、あたしって。
「そうだ、もうすぐあの子が来るんだと思うんだけど、ちょっと遅いわね・・・」
「泉美、あの子って・・・?」
その直後、泉美の家のインターホンが鳴りだした。すると泉美が急に立ち上がって部屋から出て行った。一体泉美に何があったんだろう・・・?
「お待たせ、柚希ならこの子の事知ってるよね?」
再び部屋へと戻って来た泉美の他に、もう一つ女の子がいた。その女の子は泉美と同じ様にとても見覚えのある顔だった。
「あ〜っ!もしかして瑞穂ちゃん!?久しぶり〜、元気にしてた?」
「柚希ちゃん久しぶり〜、私は元気に学校生活を送ってるわ。柚希ちゃんも一人暮らしとか学校生活は上手くいってるの?」
その女の子は瑞穂ちゃんだったの、あたしが引っ越してからも瑞穂ちゃんは全く変わっていなかった。勿論あたしがプレゼントしたヘアピンもきちんと付けた当時の位置についてあった。
「とりあえずはね、それに向こうでも友達が出来たから、時々その友達と一緒になる事もあるわ」
「よかったじゃない柚希ちゃん、ちゃんと友達出来たんだね。私柚希ちゃんがちゃんと友達出来るか心配したんだよ〜」
「そうそう、時々帰りに瑞穂と会うんだけど、その度に『柚希ちゃん、私達がいなくても友達出来てるかな〜?』って心配そうに言ってたしね」
「ありがとう、でも何だか恥ずかしいな・・・」
瑞穂ちゃん、あたしが友達がちゃんと出来てるかいつも心配していたんだね、あたしとチャットで話す時でもその様な事を言わなかっただけに、ちょっとびっくりしたし、それに恥ずかしくなった。
「そうだ!折角3人集まったんだし、今日はあたしの家に泊まっていきなよ。早々にこの3人が集まる機会なんてないしね」
「えぇ、もちろん泊まるわ。勿論この機会に3人のかけがえの無い思い出を作りましょうよ」
「うん、あたしも泊まることにするよ。そして楽しい思い出たくさん作ろう」
こうしてあたしと瑞穂ちゃんは泉美の家に泊まる事にしたの。そして、泉美の家族と一緒にご飯を食べて、その後は夜遅くまで泉美と瑞穂ちゃんと気が済むまで話し合ったの。話の内容は、主に学校の事や友達の事や最近の出来事とか色々話し会ったわ。これであたしの地元に帰省した話を終わります。
特別編その一 おわり